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大阪高等裁判所 昭和36年(う)1448号 判決

判決理由〔抄録〕

<証拠>を総合すると、本件事故現場付近道路は東北から西南に走る幅員約四・八五メートルの非舗の歩車道の区別のない山間部落の道路で、東南側は約一〇メートル下にある田畠のある低地に接し、西北側は雑木林の傾斜地が道路に迫り、前記長野正三方は右道路、西北端から約八・六メートル奥に建ち、雑木林に接し、長野方住家前は畠地又は空地となって、その中間に道路に直角に通ずる幅員約二・四メートルの通路があり、右通路入口向って左側に常緑樹十数本が道路に平行して立ち、その奥には羊小屋と便所の建物が道路に平行して並び、その西南方は畠地に続いて雑木林の傾斜地が道路に迫り、長野方西南方約五〇メートルに製材所一棟があるだけで付近に住家はなく、右長野方通路入口前から西南方約四〇メートル付近までの道路は直線で緩いこう配を成し、右西南方四〇メートル付近で南方に約一五度の緩いカーブを作って曲っており、また長野方前から東北約一〇〇メートル付近で道路は曲折し、その前方の見とおしはできない状況であるが、西南方四〇メートル付近における長野方の見とおし状況は、その建物のあることが見分けられる程度で、屋敷内の状況とくに通路の存在、その入口の状況は右樹木や小屋にさえぎられて見とおすことはできないし、右植樹のある辺からは右通路入口辺が見えるだけで、通路内部は見えないこと、従って通路入口に達するまでは通路内に自転車に乗る児童がいることを予見することができないこと、被告人は昭和三五年二月一九日午後三時四〇分頃大型貨物自動車を運転して右道路を西南方から東北に向って時速四五キロないし五〇キロ位で進行し、長野方手前四〇メートル付近で、前方一八メートル余の道路左側を一人の子供が自転車に乗って向って来、その後方道路右側を一台の貨物自動車が対向して来るのを認めこれらと離合し、警笛を鳴らさず速度を減じないで道路左寄りに進行を続けた直後、道路左側の長野方通路入口から長野正昭(昭和二八年四月四日生)が自転車に乗って被告人の進路に斜めに向って走って来るのを発見し、あわてて急制動の措置をとったが間に合わず、自己の自動車の左前車輪タイヤ外側等を右自転車の前輪車軸左側に接触させ、同人を路上に横転負傷させたこと、及び右道路の制限時速は道路交通取締法施行令第一五条第一項第二号により四〇キロであり、当時の被告人のとった速度は右法定速度を超えたものであったことが認められる。

ところで右事故は被告人の業務上過失に起因するかについて考察すると、右現状付近の見とおし状況は前記のとおりであって、道路西南方からは、長野方住家前の畠地や空地及び住家入口から道路に通ずる通路の模様をその至近距離に達するまでは見とおすことが不可能であるから、特段の事情のない限り右通路付近で自転車に乗って遊ぶ児童がいることを予見することもまた不可能であるということができる。そして前記証拠によると長野正昭ら児童が右通路付近で自転車を乗りまわしていたことがうかがわれるが、記録上被告人がこれを予め認識しうべき特段の事情のあったことを認められる資料は存しない。従って被告人に長野正昭が右通路で自転車を乗りまわしていた事実を予見すべき義務があったとはいえない。また自動車運転の業務に従事する者は自動車を操縦して人家の前を通過する場合危険の発生を予見すべき特段の事情もないのに、いつ人車等が道路に走り出すかも知れないおそれがあるとして、常に警笛を吹鳴し速度を減じて運転し事故の発生を未然に防止すべき義務があるとはいえない。しかも右現場付近は前記のとおり雑踏の場所とか、こう配の急な坂、屈曲のある場所ではないから、道路交通取締法施行令第二九条に定める警音器等により合図をしたり、徐行しなければならない場所とはいえないのである。そして記録によると、被告人は長野正昭が自転車に乗って通路から道路に走り出すのを見て直ちに急停車の措置を講じ、かつハンドルを右に切り、事故の発生の防止に努めたことが明らかであり、前方注視をしなかった等により正昭の発見が遅れたことを認めるに足りる証拠はない。ただ被告人は右道路を進行の際法定制限速度を超過していたことは前記のとおりであるが、かりに被告人が法定制限速度時速四〇キロで運転していたとしても、長野正昭を発見し直ちに急停車の措置を講じても同人との接触を避けることができなかった状況であったことは、松井茂提出の鑑定書、同訂正書によって明らかであり、右速度制限違反と本件事故発生との間には因果関係がないことが明らかである。

以上要するに、本件事故発生に責むべき過失はなく、本件事故は長野正昭が自転車に乗って被告人操縦の自動車の前方間近に突然現われ、被告人に事故発生防止の手段を講ずべき余地がなかったことに起因するものと認めざるを得ない。

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